とある伴家での会話(その2)若者はフランス人だった。 

(知恵)おいしかったね。ところで、低所得者用住宅の多い地域に暮らす人々の失業率ってどんな感じなの?
(伴)35%とか言われているよね。でも残りの65%は職を持って働いている。
(知恵)今回の暴動だけど、若者だよね。彼らは移民なの?
(伴)いや、彼らの多くはフランス国籍を有するフランス人らしいよ。制度上差別されることはまったくないみたいだ。義務教育制度は整っているし、職業訓練校だって入れる。高等教育もほとんどお金はかからないし、その選考に関して差別されることはないというか、移民数の多いアルジェリア人では25%を越えるような混合婚率だもの、もはや出自で差をつけることが難しい状況らしいよ、反対にトルコ人パキスタン人はものすごく混合婚率低いらしいけどね。アングロサクソン系の国ではまずありえないような混合状態、だから、おじさんもNYのことを引き合いに出したりしたんだろうね。
(知恵)今回不思議だなぁって思ったのは、彼ら、自分の近所の車とか幼稚園とかモスクまで火をつけちゃってるよね、なんで、他の地区の車じゃないんだろう、もし同族意識があるんだとしたらって考えるとちょっと考えちゃうの。
(伴)フランスでは今回の暴動は民族的な対立とかの見方は少ないようだよね。
若者が感じる不公平感は、フランス人としてのものだという見方。同じフランス人として置かれている境遇というか自分の環境に歴然とした差を感じてしまっているというのもあるのかも知れないね。そこには祖国で暮らす同年代の人間との比較はあまり見られないんじゃないかという点でね。最初に移民として入ってきた世代やその下の世代は、祖国での暮らしぶりを体験として持っているわけだから、それに比べれば自分達の暮らしはということで、頑張って祖国に仕送りをしている人も実際にはいるようだし。一人でたくさんの人の生活を支えるのは大変なことだから、フランス政府だってかつての植民地への支援を国として積極的に行っているのだと思うよ。
もちろん、差があることは歴然としているし、先祖代々の土地や地縁、財産もないために、なかなか職につくこともままならないこともあるだろうし、国民戦線という政党の支持率を見れば、風当たりの強いときもあるかもしれないしね。65%という就業率を立派というか頑張ってるよねと見るかひどいとするかはその人の考えにもよるんじゃないかな。もちろん、それでいいわけは決してなくて、職を求める人には出来る限り職が提供されるべきなんだけど、最低限働くための技能は身につけなければ仕事にありつくことは出来ないのだから難しいところだよね。低所得者地域に暮らしているという理由だけで、それをハンディキャップのように扱うのは逆に国民みな平等という精神からかけ離れてしまう危険があるしね。
(知恵)ただ、よく、ドがつく人は貴族だとか、グラン・ゼコールを出た人でないと社会の上層部には行けなくて、階層社会を生んでいると言われているでしょ。
(伴)実際にグラン・ゼコールを出て、さらに国立政治学院(ENA)出身の人たちが高級官僚として行政の中枢を占めていることや、彼らが政治家や企業に転出しても6年間は身分が保障されて再び行政府に戻れる特権があることなどが批判されてきたりしているのは事実(ほんと)っぽいよね。それに、1981年にいくつかの大企業が国営化されたために、より行政府との関係が密接になったという不満もあるようだしね。ただ、じゃあ、そのグラン・ゼコールに入るのに制限があるかっていうとそんなことはなくて、門戸は開かれているんだよね。ただ、門戸が開かれているだけでは現実的には入ることが難しいことには変わりないんだけどね。かなりハードに勉強しないとその関門をくぐりぬけることは出来ない訳だし。
(知恵)なんか含みのある言い方なんだけど、それはなぜ?
(伴)当然学校の授業料はほとんど負担にならないのですべてのフランス国民にとって平等なんだろうけど、例えばグラン・ゼコール入学により近づくためには、それなりの進学校に入ることが有利だったりするわけだよね。そういった学校はパリに比較的多くあるわけだけど、そこに入れようと思うとパリ市内かヌイイやブローニュなどの隣接都市に暮らす必要があるんだけど、そのためには家族世帯としてこのあたりに暮らそうと思うとかなりの収入がないと難しいんだ。それにこういった進学校出身の家庭教師をつけたりもしているようだしね。そうすると一般庶民レベルではなかなか大変なんだよね。もちろん競争が激化したパリ市を避けて挑戦する家庭もあるらしいんだけど、そういった家庭も引越しなどをすることが出来るだけの財力とかのある家庭に限られてしまいがちなんだそうだよ。なので、本当にずば抜けて能力の高い子供だったらそういったことを乗り越えてこのいわゆるエリートコースに入ることが出来るんだけど、そこそこの能力だとやっぱり家庭環境として厳しいものがあるよね。でも、これは特に移民系の人々が不利益を被っているということじゃなくて、すべての一般家庭に共通のハードルでもあるんだよね。
(知恵)階層社会の大きな壁と言われている点ね。
(伴)ただ、これは今回の暴動とはあまり関係がないよねと言われているらしいんだよね。フランスの若者の中でほんの一握りのみ手に入れることが出来る特急列車の切符目指して頑張っている話で、日本でも東大を目指すには東大生の家庭教師がつかないと、ずば抜けて出来る子以外が入るのはなかなか難しいらしいとか言われているし、入ったあとも、こういったOBとのつながりが有利になるなんて話もうわさ話ででるよね。公平な競争を担保するため家庭教師禁止とか、人とのつながり(コネクション)禁止とか無理からやったとしても、両親がOBだったりするケースはどうしようもないわけだしね。野球みたいに親であっても指導しちゃならんみたいな話にすればいいのかなぁ。相撲部屋は息子ではなく弟子の一人として同等に扱うみたいなのがあったけど、勉強で親が弟子を取っている場合じゃないし。
(知恵)また、話が横道に逸れてるわよ。
(伴)そうそう、若者の話だったよね。
(知恵)今回の暴動を起こした人の多くは義務教育とかをドロップアウトした少年が多いということらしいわよね。ということは、グラン・ゼコールへの進学の話とはちょっとマッチしないんじゃないかしら。
(伴)そうだね。彼らに必要なのは、教育の再開か職業訓練、そして、その後の就職先だよね。休憩前に話したスーパーとかのレジでは多くの移民系の人が働いているっていったよね。他にもアパートの管理人とかビルの清掃員とかの仕事といった比較的収入のいい仕事があるんだけど、このあたりはポルトガルからの移民がその職の多くを占めていたりするそうだよ。
(知恵)え、ポルトガルからの移民もいるの?
(伴)以前は、イタリア、スペイン、ポーランドポルトガルなどから多くの人が入ってきたらしいよ。もっと昔を遡ればガリア人の暮らしてたところにローマ人やゲルマン人が入ってきたらしいんだけどね。イタリアといえば、レオナルド・ダ・ビンチが移民として有名だよね。
(知恵)そうか、どうりでモナリザルーブル美術館にあるわけだ。知らなかった。
(伴)ユーロニュースというテレビプログラムの天気予報を見ているとわかるそうなんだけど、地中海地方の天気は見たいな感じでやってるらしいんだよね。近年はこの地中海地方からの移民が大多数だったりするそうだよ。なんか仲間意識みたいなものがあるんだろうね。さっきあげたイタリア、スペイン、ポルトガルなんかはそうだし、北アフリカやトルコ、レバノンなんかもそうだしね。それ以外ではベトナムとか中国とかかな。
(知恵)随分といろいろな国から来てるんだ。
(伴)その中でももともとの教育水準、生活水準が高くはない北アフリカの人々がフランスに来て職を得るのは簡単じゃないよね。それだけじゃなくて、フランスには海外県っていうのもあってさ、例えば、マルテイニクやグアドルーブはカリブ海に、レユニオンはインド洋に、そして南米にはギアナという県があるんだ。それと、領土としてはニュー・カレドニアとかポリネシアとか聞いたことあるよね。そこへの移民流入とか話もあるけど、これはややっこしくなるから今回はやめておこう。
(知恵)ちょっと頭を整理したいんだけど、フランス国籍を持っていないけど滞在許可の降りた移民でしょ、フランス国籍を取得した移民でしょ、それに、あと不法滞在の移民。
(伴)今回暴動で捕まった人の中には、滞在許可を取り消されて国外退去処分かなんてのもあったよね。このあたりはここ20年でも移民規制法という法律の改正が何度か行われて厳しくなったりもしてるんだけど、ちゃっかり不法滞在を重ねて既成事実を作って永住権を取得しちゃう人もいるらしいよ。でも、多くの若者はこの移民規制法対象外の一般フランス国民だよね。
(知恵)そうなんだよね。親がフランス国籍を持っていてフランスに生まれれば自動的にフランス人、そうでなくても、生まれてから18歳になるまでにある程度の年数をフランスで過ごせばフランス国籍の申請OKってことだものね。但し、16歳から21歳の間に申請が必要だってことおじさんに教えてもらったことあるわ。それとフランスで生まれた子供には滞在許可証の必要がないってことも聞いたことあるし。
(伴)そう、フランスで生まれてもまだフランス国籍を取得できていない18歳の子というのも重要なポイントだよね。
(知恵)ちょっとわかってきた感じがする。夕飯でも食べて、続きはそれからにしない。
(伴)そうだね。

(その3とある伴家での会話(その3) 最終回。フランスのご老人は怒らせてはいけない? - antiECOがいるところに続く。)