とある伴家での会話(その1) 貧困からその会話は始まった。

(知恵ちゃん)antiECOのおじさん、どうしちゃったのかなぁ。怒っているのかなぁ。
(伴兄さん)あのこと?それともあっち?それともあれかな? いや、そんなの全然気にしてないって。たぶん疲れちゃっただけだと思うよ。復活して以来、随分とたくさん書いてたから。あの数倍は仕事で書いてるのに、あれだもん。キーボート叩き過ぎて、腱鞘炎になっちゃったらしいよ。不思議なのはしゃべってもいないのに、たくさんしゃべった気になって、どうやら声が枯れてちゃったみたいなんだ。さっき電話したとき聞いたら、もう、ひどいひどい。
(知恵)なんだ、なら、心配いらないわね。腱鞘炎はしょっちゅうだもの。ところでおじさん、なんであんなに貧困層にこだわってるのかしら。
(伴)千恵ちゃんは、貧困層ってどういう人たちを指すか知ってる?
(知恵)貧しくて困ってる人たちのことだよね。
(伴)ベタな回答ありがとう。実は国連の定義だとね、貧困層というのは一人一日あたりの生活費が1ドルにも満たない人たちのことを指すそうなんだ。
(知恵)一人一日100円ちょっとぉ?
 だって、フランスって先進国でしょ、一ヶ月3500円くらいだなんてあり得ない。ホワイトバンドの話題とかでアフリカのことはちょっとだけ知ってるけど。
(伴)ちょっと待って。フランスの移民の話なんだけどさ、受け入れている移民とかの半数程度はそのアフリカの人たちなんだよ。アフリカで生活苦に悩む人たちが多くてね、そういう彼らが今でもフランス本土やフランスの飛び地にいろいろな形で入るもしくは入ってこようとしているようなんだけれど、彼らの多くはそれまでの生活ぶりがまさにその貧困層の人たちの生活ぶりなんだ。 低所得者用の住居も必要になるし、そして生活援助の為のお金を支給しているケースもあるんだ。その具体的金額は、家族の数にもよるらしいんだけどね、そのときそのときの物価水準とか家族構成とか勘案して、フランスで最低限程度の生活をするのに困らないくらいの額を支給しているんだよ。
(知恵)そうか、でも、もっとたくさんのお金を支給することは出来ないの?
(伴)これはそう簡単にはいかないよね。フランスでは働いている人のために最低保障賃金というのが定められていて、雇用者はそれ以下の賃金で雇ってはいけないことになっているんだ。そして、この最低保障賃金も物価水準などを基準に定められているんだよ。もし、生活援助の額を引き上げるのであれば、同じ物価水準を使用しているこの最低保証賃金も引き上げなければならなくなってしまう。そうするとね、雇用者側の経費が跳ね上がってしまう。そのときどうするかといえば、そのまま価格に転嫁させるかもしくは従業員の数を減らすしかないよね。そうなると待っているのは単純に言えば、物価上昇か失業率の上昇ということになるよね。
(知恵)そう簡単に出来ることではないんだね。
(伴)さらに話が複雑になってくるのが、フランスはEU加盟国であって、多くの国と共通のユーロという通貨を使っているよね。経済的に密接なつながりを周辺国と持っているわけだから、物価上昇や失業率の問題は、当然周辺国にも波及していくことになる。だから、そう簡単に自国の事情だけでは決められない状況にあるんだよ。
(知恵)そうか、でも、移民の人たちもいつまでも生活保護を受けているのではなくて、いずれは働くことになるんでしょ。
(伴)もちろん、フランスに入国後、職を見つけたりいろいろな形で働いている人はたくさんいる。でも、彼らは識字率が低かったり計算が出来ない人が多かったりもするし、技能を身につけていなかったりで、職を得るためには職業訓練を受けたり、勉強をしたりしなけばならなかったりする必要がある人が多かったりするんだ。ある程度の年齢に達しているとなかなかそういったものを習得するのが大変だったりして苦労しているらしいよ。中には訓練をあきらめる人も出てきてしまって、ずうっと生活保護を受けたままだったりするんだ。日本ではあまり想像できないことだけどね。それに、日々新しい移民を受け入れているわけだから、職のない人の数はなかなか減らないよね。
(知恵)ところで、その生活保護を受けている人のフランスでの暮らしはどんな感じなの?
(伴)よくパリでの生活が日本に伝えられているけど、あんな感じの生活を送ろうと思ったら夫婦共稼ぎで夫婦とも平均クラス程度の収入がないと難しいらしいよ、家賃とか高いらしいから。それよりも、おじさんが兄弟が多いことにこだわっていたよね。あの理由、わかるかな?
(知恵)え、一人あたりに親の手がなかなかかけられないってことじゃないの?
(伴)そうとはまっすぐ書いてなかったよね。若者が兄弟が多いというのは、フランス国内に限ったことじゃないんだ。彼らの両親だって兄弟がたくさんいて、祖国にいたりするらしい。昔、おじさんが郵政民営化関係の話をしていたときに、海外送金の話を書いていたことがあったろ。いつも窓口に行列が出来ていたりしてっていう話。もらった生活保護費の一部だったり、働いたお金の一部を祖国の家族に送金したりしているケースもあるらしいんだよね。だから、彼らの暮らしはなかなか楽にはならないみたいなんだ。複数の女性でその配分に関してもめてたみたいなこと書いてあったよね。
(知恵)だとすると、彼らの子供に渡るおこづかいなんてほとんどないんだろうね。でも、その若者は働くことは出来ないの?
(伴)日本の常識で考えれば古くは新聞配達とか今はフリーターとかで未成年者にもいろいろ働き口があるんだろうけど、そもそも終身雇用制度で来ている日本の労働制度とフランスの労働制度ではいろいろと違いがあるようだよ。そもそもフランスには残業制度というのがないのは知っているよね。週35時間厳守。それじゃ生活が苦しいといって、40時間への緩和の話がちょっと前に話題になったけど。基本的にはきちんと労働契約を結んで雇用することが求められているわけだから、気軽にバイトというわけにもいかないようだよ。個人が部屋の掃除をお願いするとかの依頼を現金渡しでやっている場合なんかがあるけど、もちろんこれは事業者がやることではないしね。例えば日本だと高校生のバイト先って何があるんだろう? 新聞配達、喫茶店、ファミレス、コンビニとかかなぁ? あと、本屋さんとか? 新聞はスタンドだし、カフェやブラッセリーの給仕や厨房は立派な大人の仕事、コンビニというかミニスーパーはあるけど、あれも大人の仕事、大型スーパーを含めてレジには移民系の女性がほとんどらしいし。
(知恵)ふーん、そうなんだ。そういえば土日のバイトとかも無理っぽいもんね。特に日曜や祝日はほとんどのお店や会社もおやすみだっていうし、ほんとにしーんとしてて、初めて見たときにはおどろいちゃったもの。夏休みとかも都会はもぬけの殻状態だって言うし。
(伴)antiECOおじさんなんか、日曜日にタバコを売っているお店を探して2時間以上もパリの街を彷徨ったことがあるらしいよ。その成果もあって、休みの日に売っているお店を一軒だけ見つけたらしいけどね。そんな苦労をするくらいならやめればいいのにね。
(知恵)そうだよね、一度やめたことあるらしいのに、意思が弱いんだから。最近アイルランドとかイギリスとか街中での喫煙が厳しいという話を聞くけど、フランスは緩いのかなぁ。どうも街中でも普通にタバコが吸える雰囲気みたいだし。おじさんもしょっちゅうタバコをせがまれるようだったらやめちゃえばいいのよ。
(伴)無理してやめて八つ当たりされても困るけどね。しかし一箱600円は高級品。簡単にお店で一箱頂戴とはいえない金額。それよりもおじさんはドラッグの方を心配していたなぁ。
(知恵)話がちょっとそれちゃったみたいね。休憩しない?お茶でも飲んで。もっと話したいこともあるし。

(その2、とある伴家での会話(その2)若者はフランス人だった。 - antiECOがいるところに続く。)