メトロでの恥ずかしい出来事

今日もさぁ仕事だ、とメトロへと向かった。
いつもの車両に乗り込み、そしていつもと同じ4人ボックスの窓側の席に。
 
まず、私の正面に小柄な若い女性が。大きく開いた胸元をしきりに気にしつつ、ときどき私の様子を伺う。
 
となりにはちょっと大柄な、やはり若い女性。おもむろに茶色の紙袋からハム入りのバゲットを取り出し、パクついている。食べている姿を見るんじゃないという牽制を感じる。
 
そして、正面の女性のすぐ裏側の席には若いカップル。こちらからは女性の顔だけが見える配置。私の視界には彼しかいないのモードにどっぷりと浸かり、彼の唇を求めている。チュッチュとやってはうっとりした目で彼を見つめ、1分もたたないうちにまたチュッチュとやらかす。
 
さらに、そのカップルの奥には、前述の女性よりもさらに若い感じの女性2人が座っている。なぜか、左側の女性と視線が合ってしまう。そして、その子が微笑んでいるのか、挑発しているのか、はたまた、小馬鹿にしているのか真意は掴めぬが、私を見て笑みを見せていることだけは確かだ。
 
この状況で、私はどこを見ていればいいのだ?
 
天井か?
いや、天井をずっと見続けるのは不自然だろう。
私の左前の席は空いているのだが、その席をずっと見つめ続けるのはさらに不自然だ。
目をつぶるか。いや、目をつぶると嗅覚と聴覚が敏感になり、やけにとなりの女性のバゲットのことが気になって仕方がない。
 
そうだ、窓の外を見よう。真っ暗だけど、他の所を見るよりはマシだろう。
そして、窓の外を見つめた。
ダメじゃん。
窓が鏡になって、正面の女性の胸元がちょうど視線を投げた正面にある。そして、正面の女性と鏡越しに目があってしまった。
 
「おいおい、私はそんなスケベオヤジではない。誤解しないでくれ。」と心の中でつぶやきながら、遠くの方に視線をそらした。
 
ちょっと、自意識過剰なんじゃないか。とか、自分が考えているほど相手は気になんかしているはずがないなどと言い聞かせて、視線を動かすと、どっちを向いても目が合ってしまう。

これを衆人環視というのか、それとも、寄ってたかってパリジャンにアジアの中年オヤジが試されているのか?
 
こういう時に限って時間の経つのが遅かったりする。そして、さらには、誰も降りないではないか。いつもなら雑誌を持ち歩いているのに、今日に限って持っていない。
 
いい加減もう勘弁してください状態で疲れてきたときに、正面の女性に動きがあった。
膝がぶつかるくらいの距離でごそごそやられたら、誰だって気づく。

おい、君はいったいなにを始める気だ。


いまだって、その胸元は十分過ぎるくらい開いているのに、それ以上開けてどうする?
 
おいおい、アンダーウェアが丸見えじゃないか、黒のレースのブラだって誰が見てもわかるぞ。
ちょっと待て。
   
なぜ背中に手を回す。ホックを外しているのか?
その仕草は外したな。ってことは、次はどうする。
そうか、胸元に手を突っ込むわな。
次に突っ込んだ手を肩に回してなにやらさらに外している仕草。肩ベルトか?
もう一度手を胸元に戻して、ぐにょぐにょとたぐり寄せて、サッと引き抜く。
そして、引き抜いたブツを鞄に入れると。
って、いったいアンタは車内で何をしているかね。
今すっかり胸丸見えだろうが。早くボタンを留めてしまってくれ。

おい、横の姉ちゃん、もう一個食うか、そうですか。えらい食欲ですこと。
さらには、ちょっと向こうの姉ちゃんは彼氏の鼻の穴に舌を突っ込みますか?
 
そして、さらに向こうのお姉ちゃんは、こっちに向かってVサインのポーズ。
 
フランスで女性専用車両なんて設けたら、さらにすごい状況になってしまうのだろうか。
あきれながら、いつもの駅で、無礼講のメトロをあとにした。

マジで疲れた。