天高く空駆け昇る...何?

  
私はお金が好きだ。好きで好きでたまらない。
だからこうやって会社を興した。
私は主(あるじ)となることが好きだ。主という響きが好きで好きでたまらない。
世の中をみよ。株主、馬主、社主、そして、オーナー。オーナー、経営者なんて安っぽい響きではない、所有者、これだよ、君、これ。救世主なんてのもあるじゃないか。ヒーローだよ、君。
だから私はこれを目指すのだ。

  
私は社長と呼ばれる。が、しかし社長とか経営者とかそんなものにはまったく興味はない。
だから、紳士たる気は毛頭ないし、TPOなんてわきまえるつもりもない、日本の将来を背負う気だってないし、社員の未来だってその社員のものだ、私は私の未来の姿を思い描くだけ。
そもそも経営者なんてものは主(あるじ)へのステップにしか過ぎないのだ。
世の中を見よ。ダイエーを見よ、西武を見よ。未来永劫の繁栄などあり得ないのだ。事業が傾けば責任を取らされるのは経営者だ。多くの株を握りしめたまま、経営者として野垂れ死にする気などないのだ。
株主として経営者を追及するのは快感だ。

  
私はお金が好きだ。好きで好きでたまらない。
だから、いくつも会社を買収した。
私は資産価値のある会社が好きだ。総資産という響きが好きで好きでたまらない。
世の中をみよ。多くの資産をためこんでいる企業がなんと多いことか。どう支配するか、どう今後発展させるかなんてどうでもよい、その資産さえ手に入ればいいのだ。
だから、私はM&Aを仕掛けるのだ。

  
実は私には本当になりたいものがある。
君にだけそっと教えよう。
私はエンジェルになりたいのだ。あぁ、エンジェルという甘美な響き。エロス神だよ、そう、エロス。
翼を優雅に広げ、意中の企業に矢を放つのだ。金の矢を。
擦り寄る経営者たちに満面の笑みを浮かべ、資金という協力の手を差し伸べるのだ。その見返りはなんだっていい。株でも、債権でもなんでもいいのだ。そして私は多くの経営者の主(あるじ)として君臨して、崇め奉られるのだ。

  
エンジェルになるための条件はひとつだけ。
そう、使っても使い切れないくらいの個人資産を持つことだ。それも有価証券の類ではなく、現金だ。変動のリスクが少なければ少ないほどいい。
そのために、私には行わなければならないことがある。
ひとつは社長という座を降りること。
そして、もうひとつは、保有資産を確定させること、つまり保有株式の現金化だ。
君は株券でパンを買ったことがあるか。ないだろう。現金化しなければ自由に使うことが出来ないのだよ。

  
しかし、ね、君。
何の問題もなく社長の座を降りつつ、その会社の株式を現金化するなんてことは、そう簡単に出来ることではない。
なにせ、私は世間の評判が悪い。それにこの衆人環視だ。ちょっとした動きをすればすぐに気づかれる。

  
実は私はその方法を知っている。
君にだけそっと教えよう。
それは、私の会社を超優良企業の関連企業か子会社にした後、円満に社長を退任することだ。これ以上においしい方法はない。
なにせ、不安定なわが社の株式時価総額が安定するのだ。星なしレストランがいきなり星2つくらいついたような評価に変わる。それに、これを機に社長退任したって、誰が責めるものか。
「わが社のイメージアップのため、潔く身を引くことにしました。」などとひとつかましておけばすべては丸く収まる。そして、そっと保有する株を売り抜けてしまえばよいのだ。
数字だけの資産が現金化されるのだ。経営者責任からも解き放たれる。
そしたら、君、待ち構えているのはエンジェルだよ、エンジェル。

  
だけどね、最近どうも想定外のことが起こりつつあるんだ。
どうもよってたかって私を社長の座にしばりつけておこうとする空気を感じるのだよ。おまけに新たに買収した会社の経営までしなくてはならないかのような事態だ。私はその事業そのものに興味などないのだ。公共とか、正義などという言葉にも興味はない。だって、私は降りたいのだよ。経営者の地位にこだわるどころかさっさとやめたいのだ、責任を取らされる前にね。
だから、早く私の会社を子会社化してくれ。市中に私の会社の株などたくさんあるだろう。買収しようと思えばできるはずだ。どうして買占めないのだ。
まぁ、ここまでは想定の範囲内ということにしておこう。でも、どうしてもわが社の株を買占めしなければならなくなるところまで追い詰める手段はまだある。
私は頑張るぞ。
エンジェルがもうそこまで見えているのだ。

  
最後に君にだけそっと教えよう。
主(あるじ)になりたかったら、私の記すものをじっくりと読むがいい。起業はワンステップにしか過ぎない。間違っても経営者なんかにこだわってはいけないよ。
それとね、エンジェルになるための方法はそこには記されていないのだよ。それは、私が晴れてエンジェルになったときに記すことになると思うよ、もし可能ならばね。
でもね、大天使の座はひとつだけだから、そこのところ誤解のないようにね。

(作:私の夢に出てきた偉そうな人。3月29日の晩のantiECOの夢の中でのお話)

ここまで話を伺って、私は目を覚ました。質問したいことは山ほどあったのに。今度いつ話を伺うことができるのだろうか。