ガ島通信さんに愛を込めて−ラジオ世代からのメッセージ−

前回のこちらからのメッセージは短いものでしたので、ちょっと腰を据えて書いてみたいと思います。(以下まとまりきれていない部分がありますので、大筋は別として随時改訂するかも知れません。未定稿です。)

(1)全体を通じて思うこと
ガ島さんのところでの議論で、ラジオあるいはラジオ放送の中身に触れるコメントやエントリーがないままに、インターネットとの融合や経営論、株主と社員の関係などが論じられていることに寂しさを抱いています。
私はラジオ放送が好きです。愛しているというほどではないですが。(笑)
子供の頃はAM放送、特にニッポン放送に格段の思い入れがあります。高校生あたりからFM放送(当時はNHKFMとFM東京だけでしたね。)、大学生の頃は再びAM放送、そして社会人になってからはFM放送をよく聞いていました。残念ながら、今は日本の放送を聴ける環境にないので寂しい限りですが。
今回の騒動でいくつかのブログで亀渕社長の記者会見などを非難するようなエントリーを見かけました。また、今回のガ島さんのエントリーでは冨田恵子さんの日記について触れていたようですね。
しかし、ニッポン放送には社長の亀さん以外にも、これまで名物アナウンサーを多数輩出しています(くり万太郎さん、はた金次郎さん、塚ちゃん、上柳昌彦さん、高島ヒゲ武さん、斉藤安弘さんらです)が、彼らは沈黙を保っているようです。また、歴代のパーソナリティの方々や著名な構成作家さんらも多数います。彼らが森本卓郎さんのようにネガティブキャンペーンを張ろうと思えばできたのにそのような事を表立って行わないことの方をむしろ脅威に感じています。私には彼らが様子見をしているようにはとても思えません。皆さん決意を胸に秘めているのではないかと思うのです。
今のインターネットの世界はある程度の広がりは見せたものの、世間全般を取り込んでいる訳ではないでしょう。今後参加を期待する層、つまり、30代後半以降ご老人までをうまく取り込んでいかないと本当の意味でのマスにはなり得ないのではないでしょうか。このとき、かつて30代後半以降に絶大なる支持もしくは影響を及ぼす人々を迎え入れない限り、爆発的にユーザ層を開拓することは困難です。では、その起爆剤になり得る人材とはかつてのラジオ全盛期のパーソナリティ以外に誰が考えられるのでしょうか。彼らの取り込みに失敗したポータル事業者は将来の成長は困難になる可能性があるのではと思うのです。
タモリさんや江本さん、中島みゆきさんのことが裁判の関係から報じられました。これはニッポン放送降板もしくは出演辞退に限った話ですが、ライブドアポータル事業への協力となるとさらに多くの方々にそっぽを向かれる危険性がないとは言えないでしょう。

(2)ラジオ局について
ラジオの世界は特別な世界だと思っています。テレビやインターネットとは違ってなにせ音だけの世界です。
これはつまり、音楽もしくは人の発する言葉のみで構築される世界です。ということは、音楽にせよ、言葉にせよ、人そのものが唯一のコンテンツなのです。ということは、いかに聴き手に歓迎される人(音楽を主体とするならば、ディスク・ジョッキー、語りを主体とするならばパーソナリティですね)を充実させることが重要なのですね。もちろん番組の企画構成や放送作家さんの充実も欠かせません。
ところで、AM放送はFM放送に比べてどうしても音質が劣ります。FM放送が音質の良さを生かして音楽中心だった頃はしゃべりはAM放送という暗黙の了解みたいなものがありましたが、15年ほど前からFM放送が音楽中心という訳ではなくなってきました。それと同時に私もJ−WAVEのヘビーリスナーになっていきます。
今のJ−WAVEのラインアップはある意味理想的な構成です。午前中はジョン・カビラさん、クリス智子さんによる情報発信、午後は日替わりDJによる優雅なひととき、そして、夕方はピストン西沢さんと秀島史香さんという絶妙のコンビによる音楽とバラエティ、そしてちょっと知的な情報発信番組のあとは、かつてのオールナイトニッポンを彷彿させるような第一線のミュージッシャン(奥田民生トータス松本スガシカオchemistryYUKI平井堅さんがいなくなったのは寂しい限りですが))による楽しいひととき、そして、深夜はSOULTRAINという最先端の音楽の発信と、まったく隙のない見事な構成です。
また、J-WAVEのウェブサイト(J-WAVE 81.3 FM RADIO WEBSITE)は群を抜いています。
こういった身近なお手本があるのに、ラジオの将来発展にライブドア等の企業がどのような新しい提案をする余地が残っているのでしょう。
逆のケースならばまだわかります。
現在のYAHOOやライブドアのコンテンツ情報の主たるものは、画像もしくは文字で、これには限界があります。どうしても動画や音声の情報量には勝てません。1時間なら1時間のトークと同じだけの情報量を文字で発信しようとすれば、膨大な作業と費用が伴います。今後、情報量で勝負をする場合、どうしても音声や動画のコンテンツが必要です。ただ、動画については、現在のネットや機器環境ではメタな同時アクセスには耐えられず、しばらくは音声の充実が喫緊の課題となります。さらに言えば、人の声のその表現力、癒し効果等の潜在力は大変魅力的なものです。ラジオの人気パーソナリティにブログを持たせるなどしての自サイトへのリスナーの誘い込みなども期待できます。また、各パーソナリティのブログ作成を関連企業が担うことによってそれらの企業が潤うという相乗効果も期待できるでしょう。一方、技術面を見れば動画や音声などのインターネットの発信はすでに行われており、ラジオを融合させる必要などないでしょう。
つまり、極端な話、ラジオとインターネットの相乗効果といいながら、実は、インターネット側がラジオやテレビのコンテンツ(音声、動画)及びコンテンツ作りのノウハウ、さらにはリスナーの取り込み、ウェブコンテンツ受注などのためにどうしても必要としているのではないだろうかと感じるのです。しかし、これは、ポータル事業者等インターネット関連事業者にとっては将来の発展のため大事な戦略でしょうから、そのための対策を非難する気は毛頭ありません。

(3)ライブドアニッポン放送買収
そして、今回の騒動です。コンテンツ提供を求めて交渉していても埒があかないのならば、丸ごと買収してしまった方が時間がかからないし、タイミングを逸するとほかの事業者に囲い込みされてしまう危険性もあるという発想に至ったとしても不思議はありません。
では、なぜ、それがニッポン放送、そしてフジテレビであって、J-WAVEや他のテレビ局でなかったのか。それについては、保有資産の魅力はもちろんのこと、インターネット側にとって将来発展に欠かせない魅力あるコンテンツ(人)が豊富そうだということなどがあるでしょう。J-WAVEについては報道機関ではないとも言えますので、報道機能を含めてということであれば、対象候補から漏れてしまってもしかたがなかったのかもしれません。
しかし、私自身は、ライブドアが事を進めるにあたって、一番気を遣うべき点について配慮が足りなかったのではないかと感じています。
それは、最初に述べたように、ラジオ放送は人というコンテンツによって成り立っているという点です。そして、その人は、職人であり、文化であり、思想であり、宗教であり、さらにはつながり、つまり人脈なのです。これには経済理論や合理主義が介入できる限界があります。そこにビジネスを持ち込むなとは言いませんが、義理人情やその人なりの主義主張、人間関係や信頼関係とのバランスで成り立っていると思うからです。
今の社長や上級幹部職員は、かつての人気アナウンサーの亀渕さんや、くり万太郎さん、はた金次郎さん、塚ちゃんらです。
もし堀江さんが彼らの処遇を間違えれば、彼らに恩義を感じているかつてのパーソナリティやその所属する事務所、さらには関連業界の協力を得ることは困難になるかも知れません。
また、中島みゆきさんの話は彼女個人の話にとどまれば影響も多大にはならずに済むかも知れませんが、これがYAMAHA系のミュージッシャン全体に広がる話であれば、私が当事者ならば震え上がってしまうでしょう。彼らの協力なしにどうやって充実した音源、人材を確保できるのでしょうか。かつて自分で書いた曲であってもその版権を所有していないがために自ら演奏することに窮しているミュージッシャンが少なくないこの世界に対してよい印象を与えられなかったというのは私から見てどうしても情勢は厳しいように感じてしまいます。
最近、堀江氏がニッポン放送の社長を含め多くの幹部の方にはしばらく残ってもらいたい意向を示しているのはこういった事情をようやく把握できたからなのではないでしょうか。
ただ、私自身はここまで混乱を引き起こした以上、ライブドアが今後ラジオ・テレビ業界(あえてマスメディアとは言いません。)に進出もしくは協力を得るためにはよっぽどの譲歩をしない限り困難なのではないかと感じています。

(3)聖域(サンクチュアリ
ラジオはまだインターネットに積極的に参加していない多くの日本人にとって、さらにはラジオで育った世代我々のような人間にとって、ある意味、聖域(サンクチュアリ)といっても過言でない領域だということを今回の騒動が再認識させてしまったかもしれないのです。もしライブドアに侵略者というイメージが定着してしまう事態となれば、それはそうそう拭えるものではないように思えます。
我々にとって、川島なおみがワインを語ろうと向井亜紀が総統の妻になろうとも、永遠にミスDJであるし、特に川島さんの場合はお笑い漫画道場の川島なおみなのです。

(4)コンテンツ配信とライブ放送について
1時間なら1時間をしゃべりで成立させるのは容易なことではありません。また、それを毎週継続させるためにはそうとうの訓練と引き出しを持っていなければ難しいでしょう。さらには生放送の重要性も忘れてはならないと思います。それなりのテンションをあげるためにはそのきっかけとしてライブであるかどうかということが大事な要素となりえます。インターネットの持つ双方向性は今のひかり荘のようにライブ放送と視聴者の一体化の工夫によりしばらくは発展していくように思われます。オンデマンドに適する素材と、ライブ配信に適した素材とは分けることが可能であると思われます。また、コンテンツの有料化というのもありますが、ユーザに能動的なアクションを求めたとたん、マス化する障害にもなるという二律背反的な要素を解消するのは困難なように思います。

(5)ガ島さんへのメッセージ
以上のように、私はニッポン放送の経営陣や社員を非難することはライブドアにとって戦略的には百害あって一利なしだと思っています。ライブドアによる今後のインターネットの発展やマスメディアの抱える問題を解消していくことを期待しているのであれば、インターネット世代で世の中を変えていこうなどと気負うよりも、むしろ、そうでない世代をどうやってインターネットの世界に引き込むかについて議論を重ねていく方がよい結果を生むのではないかと思っています。そのためには、インターネットが身近で便利にわかりやすくなることだけではなく、取り込まれる世代にとって魅力的な世界を作り上げていく試みが必要じゃないでしょうか。
人を商品として扱う商売は、物を供給する商売や、サービス業、金融業などとは違って冷徹なビジネス論だけでは成り立ちにくいことは、これまでたくさんの事例が証明していると思いますよ。
それに社員にも会社を選ぶ権利はあると思いますし、彼らのような人材はライブドア以外のインターネット事業者にとって、のどから手が出るくらいに今後必要とされる存在となり得るでしょうから、再就職先の心配などあまりする必要はないかも知れません。

(6)おまけ
以下に、私とラジオの歴史を触れておきます。世代間の理解のために。

おそらく私とガ島さんとは10歳以上年齢が離れているので、子供時代の環境がまったく違うでしょう。
私の少年時代は、まさにラジオの時代でした。
怪人20面相シリーズ(ドラマハウスでやってました。)をラジオで知り、深夜放送にあこがれ、子供電話相談室をちゃかし、近所に移動キャラバンがやってくればそこに集まりと、生活の一部としてラジオは根付いていました。
一方で、小学校の後半からは、キットを買ってきてのラジオ作りから始まり、日本各地の放送局や海外の放送局のラジオ聴視に挑戦し、葉書を書いてはコールサイン入りの返事を待ちわびたものです。
その頃、BCLラジオが発売され、これには大変あこがれたものですが、当時の数万円という金額はとってもじゃないですが手の届く代物ではありませんでした。
同時に、ラジオ全盛期です。当初、亀渕さんや安弘さん、糸居五郎さんら局アナ中心だったオールナイトが、泉谷しげるさん、小林克也さん、あのねのね(赤とんぼの唄などを覚えました。)の登場で一気に活気づきます。そして、あのねのねを引き継いだ鶴光さん(パンツの音聞かせてなんてのを楽しんだり、色っぽい声聞かせてなんてのもありましたね。)を別格に、のオールナイトを登竜門に、ニューミュージック勢が中心の構成に変わります。吉田拓郎さん、南こうせつさん、山田パンダさん、加藤和彦さん、北山修さん、山下達郎さん、イルカさん、天野滋(NSP)さん、尾崎亜美さん、武田鉄矢さんなどなど当時テレビに出ない方々ばかりで、音楽好き、話題好きの人間がこれを聞かないでどうする状態だったのです。局アナさんでは、くり万やカッシー(柏村武昭)さんなどもいました。
中学生から高校生にかけては、所ジョージさん、タモリさん、松山千春さん、長渕剛さん、山崎ハコさん、中島みゆきさん、桑田佳祐さん、明石家さんまさんらが登場し、第2期黄金期を迎えます。山下達郎さんが竹内まりやさんをゲットした秘話なんてのも桑田佳祐さんの放送時にありましたね。
その後、受験生の時期には、大入りダイヤルまだ宵の口からオールナイトが定番と思いきや、ミスDJにはまってましたね。別の時間帯では世良政則、他局ではチャーもDJをやってましたが、チャーはとある事情で番組を降板せざるを得なかったときのことは今でも覚えています。
たけしさんや坂崎幸之助さんはそのあとですね。谷山浩子さんの猫話や白井貴子さん、SHOYAの寺田恵子さんや鴻上尚史さん、サンプラザ中野さんや松任谷由美さんなどは聞いていたように思います。たけしさんの場合は高田文夫さんやダンカンさんをメジャーにしましたね。
その後はJ-WAVEやInterFMが中心になってしまいましたが。