お金編(その1:口座、クレジットカードと小切手)

最近書こうかどうか迷っていたことですが、
http://d.hatena.ne.jp/SNMR/20050323#1111587155
にてタイムリーな話があったので、これをきっかけに書いてみたいと思います。
(1)印鑑とサイン
説明するまでもなく、欧州では口座開設にあたり、印鑑は必要ありません。いわゆるサインの世界です。
これは口座開設に限ったことではなく、書類の決裁等など日常さまざまなケースでサインが求められます。もちろん日本でもクレジット・カードを使用する際にはサインを記載することが多いと思います。
英語−日本語の関係では、
 調印 = signature
調印式 = a signing ceremony
調印国 =a signatory
などがあります。サミットなどで調印式などがニュースで報じられますが、はんこをしないのになんで調印式なんだろうなどと学生の頃不思議に思ったことをふと思い出しました。
話は飛んでしまいますが、日本では不動産等の財産の取得には実印が必要とされ、居住地の役所に印鑑登録を行わなければなりません。が、しかし、日本から海外に居住する際にはこの印鑑登録が住民票を転出させたとたん抹消されます。私実印持っていません状態になるのです。
また、銀行の登録印ですが、つたない記憶では法律で定められていたと思います。(日本に居住する外国人の方が日本で銀行開設する際にも銀行印が必要とされるかどうかについては知識を持ち合わせていません。)
印鑑の文化については中国から伝わった後、紀元700年頃から使用されてきた歴史ある世界に誇れる制度だと思いますが、偽造や盗難などのリスクを考えた場合、今後いつまで維持すべきものかについて考えてみる必要があるかも知れません。印鑑と通帳が揃っていることに安心して本人確認を怠るようになると制度そのものの崩壊が危惧されるからです。
ここで、フランスの制度について少し説明をします。


(2)口座開設
まず、口座開設ですが、さまざまな情報誌では口座開設に手間や時間がかかるようなことが書かれている場合が多いですが、本人の身元確認及び滞在ビザの確認が出来れば通常即日開設されます。ビサの申請中だったりすると、口座の開設が遅れたりしますが、これは銀行側からすれば当然の行為と言えます。この口座開設時にサインも登録されます。
そもそも住民登録制度というものがないので、結果住民票などを要する機会もないのですが、その地域の住民であることは、電気、ガス、水道、電話などの公共財の契約をもとに、いつの間にか住民としてその地域の台帳に記載されています。
さて、銀行口座開設後、1週間程度で小切手帳とカードが用意されます。どこのお店でもどんな金額からでも小切手は受け付けてもらえます。
(3)小切手
小切手のいいところは受け取り相手(振り出し相手)の名前が記載される点で、その人以外が換金することは出来ません。ですので、郵便などで小切手を送付しても途中で盗まれて換金されることはまずありません。また、手数料もかかりませんので、振込手数料等の負担もありません。また、日本のような通帳はなく、月ごとに明細が送付されてくる仕組みはクレジットカードと同様と考えていただければわかりやすいと思います。
(4)銀行口座カード&クレジット・カード
次にカードですが、基本的にはカルト・ブルーと呼ばれ、カードに埋め込まれたICチップと暗証番号により、キャッシュ・ディスペンサーからの引き出し、お店での支払い等が可能です。日本で言うところのデビットカードが近いと思います。また、VISA等の附帯カードもありますが、フランス国内での決済にはすべてカルト・ブルーの機能が優先され、暗証番号打ち込みが必須であり、磁気ストライプを使用した決済を受け付けません。つまり、例えばカードの盗難に遭った場合、フランス国内において悪用されることは暗証番号を知られない限りありません。また、3回連続で暗証番号を入れ間違えた場合、キャッシュ・ディスペンサーであればカードはマシンに飲み込まれてしまいますし、お店であれば、本人確認が求められ、問題があれば通報されます。
なので、フランスのスリや泥棒は外国人を狙います。日本人のカードは限度額が高額だったりする場合が多いので特に狙われやすいようです。ただ、フランスのお店もアホではありませんので、カルト・ブルー以外のカードの場合、身分証明書の呈示を求めるケースがかなりあります。旅行者である程度以上の金額の買い物をフランスでする場合、パスポートを携行された方が無難です。
それに比べて日本は脇が甘いように思えます。
(5)ネットでの電子決済
ネットショッピングは欧州でも普通に行われていますが、その決済は未だ小切手送付が主流です。安全度の高さから当然のことと思えます。また、VISA等の国際クレジットカードの利用も当然出来ますが、要求されるデータに日本とでは相違があるようです。カード番号、有効期限、名義に加え、カードの裏面の番号入力を求めるケースもありますが、それ以外に必ずといって問われるのが居住地情報です。どうもデータセンターにカード所有者の住所が登録されているらしく、その住所が一致しないと承認されないようです。カード番号を盗まれてもまさかその盗んだ人間がそのカードの所有者のところに商品等を送付するなどという間抜けなことをしないでしょうから、完全とは言えませんが、カード盗難時の防護策とてある一定以上の効果を上げているようです。そのあたりの日本の対策について気になるところです。Japanと打ち込むだけですべてOKだったりすると心配ですね。
あと、オンライン・バンキングも徐々に広まってきているようですが、まだまだほんの一部のようです。
(6)カード限度額
口座開設時の際などに個人である程度の選択できるのですが、いろいろと細かく限度額が設定されます。その銀行のキャッシュ・ディスペンサーならば1日460ユーロまで、1週間700ユーロ以上は引き出し不可だったりします。また、お店の利用限度額は多くても月3000ユーロ程度で、1500ユーロくらいが平均だったりします。
これも盗難時のリスク回避に非常に有効です。
え、そんな少なくてもしもの時に大丈夫なのかと心配になったりしますが、高額の際には小切手を切ればいいですし、あまりに高額でお店が受け付けない際には、銀行振り出しの小切手を発行してもらって支払うこともできます。また、ある程度以上まとまった現金が必要な場合は、自分あてに小切手を振り出して換金したりもできますので心配はいりません。
(7)日本と比べてみて
感想として、日本に比べて安全弁がいろいろと用意されているなぁということを実感しています。また、その安全弁も徐々に進化しています。暗証番号ひとつとっても基本的に番号選択は出来ず、有料で好みの番号を登録することが出来ます。ケチなフランス人ですのでわざわざお金を払ってまで番号指定する人は少ないようで、送付された番号を使用するケースがほとんどです。なので、直接見られない限り番号を知られることはありません。また、番号を覚えられないような人はカードを使用せず、小切手1本で生活をしているようで、お年寄りの方も安心して生活できるようです。そういった意味で日本が今後高齢化が一層進むことを考えると、心配になったりもします。
携帯電話等を用いた非接触型決済などの安全弁はどの程度用意されているのでしょうか。また、お年寄りが普通に使うことは可能なのでしょうか。私自身はアナログ派ではありませんが、アナログのいいところを残しつつ、また時代を生き抜いた知恵を積極的に活用したりできないものでしょうか。
グローバル化の目指すところがどうもずれているような気がしてなりません。
(8)その他
そうそう、SNMRさんの件を忘れていました。こちらで口座引き落としの登録をする際には、RELEVE D´IDENTITE BANCAIREという銀行から発行される口座の名刺みたいなシートとあとサイン、日付を記載して送付すればOKだったりします。このシートも口座番号以外に識別番号みたいなものがあったりするので、一種の安全弁になっています。また、このような手続きは通常居住地に必要書類が送付されてきてからスタートしますから、他者がなりすますのは難しいですね。さらに契約時には本人確認と居住を証明する書類(ガス、電気等公共料金の明細書等)の呈示が求められますので、これ以上なにが必要でしょうかという感じです。
そういった意味で、安全面や利便性について合理的に考えると、日本での印鑑生活には戻りたくない感じがします。
かといって、強烈な印鑑廃止論者という訳ではありません。朱の印影の持つ独特の雰囲気はこれぞ日本人という感じでもありますので、全面廃止となったらちょっとそれはないだろうと異論を唱えるだろうと思います。が、しかし、銀行関係、特に銀行印や通帳などについては、その利便性、安全性について再検討して欲しいと思っています。なぜ、盗まれた後どちらがそれをかぶるかの議論ばかりが先行して盗難・悪用防止策についての話が聞こえてこないのかが不思議でなりません。