バカロレアと学生デモ

せっかくフランスにいるのだから、今話題のバカロレア改革への抗議デモの話でも。
どこかのブログで、フランスの高校生のデモの話が出てて(たぶん今話題の弁護士のエントリー関係で、匿名で抗議とか顔が出てるとかの話だったと思う。)、顔出し抗議が出来るフランスと出来ない日本みたいな書かれ方していたかと思うのだが、どうもこの話には違和感を感じた。
だって、デモしているのはこの改革によって直接影響を受ける当事者で、その数も10万人を超える規模でっせ。

このフランスでの大学入試資格「バカロレア」ですが、今までは要は試験時の1発勝負的な要素が強かったものを、
今回の改革では、
1.試験科目数を12から6に、重要選択科目数を2から1に
2.学年中の試験により、試験科目数の減少を補填
することにより、全国共通的だったこの試験が、所属する学校によって影響を受けやすくなるからだ。

つまり、日本で言えば内申書のポイントがかなり上がったことを意味し、さらに、これはその学校のレベルによって色が付く可能性が高くなったということだ。
もともと選択科目が減らされつつある職業高校にさらに追い打ちを掛けるような処置に、現役高校生のみならず、予算削減により教員数の削減が予定されている教職員をも巻き込んで大抗議となった訳だ。
日本でも共通一次制度がセンター試験に変わったりその変遷たるやどうしたもんでしょう状態でも、現役高校生が抗議に立ち上がるなんてことはなく、そんな暇があったら入試対策に励んでいたものだろう。

ところが、幼いころから、ouiとnon、そして、自分の利害に及ぶことがあれば、必ず抗議する、つまり、抗議をしないこと=(それが、例えどんなに理不尽なことであっても)相手の言い分を納得し、認めたことになるように教育されているフランス国民である、この現役高校生にとって、自分の将来の稼ぎのバンド(帯)をほぼ決定づけるバカロレア試験の制度変更問題は死活問題と言っても言い過ぎではないくらい重要なことで、ここで抗議をしないで一生の中でどこで抗議をするんだというくらいのことだということは、国民全員の理解するところであり、これを非難などしようものならおまえはフランス人ではない、もしくは、エリート校のごく少数のキャリア候補生及びその家族くらいのものだろう。
逆に顔を隠して抗議している奴がいたら、そいつの方がよっぽど怪しいのだ。

そりゃ、自分の権利を脅かす事に対して、正々堂々と抗議を行える国民性がフランスの方が日本より明らかにあるという点については否定しないが、じゃあ、日本で、年金問題について正々堂々と抗議しづらい雰囲気にあるかと言えばおそらくそんなこともなく、課題によって正々堂々と抗議できることも多いはずだ。しかし、このような国に対して権利を脅かされそうなものが抗議を行うケースではなく、繊細なテーマである場合や自分の権利に直接関係していない場合などでは、状況は日本とは変わらず、いわゆる井戸端会議みたいなところでしか出てこない意見というのもある。
つまり、「大きな声では言えないんだけどね」といった類の話というのはどこの世界でもあることで、個人のブログではそういったことにはあまり触れない社会派の方はともかく、「くだらない話を含めて裸のつきあいをしてみたいよね。」と極めて普通なブログの住人の方々にとっては、「実名でブログやるんだったら恥ずかしくてくだけた話もできないよ。」という状況になるのは明らかで、
「エロシーンがある漫画を電車の中で読むのはどうよ」見たいな公衆の面前での倫理を説かれてもねえ(いや、自ら恥ずかしいなぁと思うことと他人からみっともないと説教されるのは違うということですよ。)ということで、じゃあフランスはエロ禁止ですかと言えば、そこらのスタンド(日本のキオスク見たいなもの)には平気で目立つところに置いてあったりして、大人は買いまくり、見まくりの状況にあるのを見たりすると、日本にいるときには「外国の紳士淑女はそんなみっともないことしない」なんて話が雑誌に書かれていたりしたのはなんなんだと思ったりして、やっぱり日本って不思議な国なんだなぁと改めて思ったりする。
特に多くのブロガーは年がら年中マジメな話をしている訳でもないので、あるブログやサイト運営者が匿名のコメントやTBは受け付けませんなんてやれば、お好きにどうぞ、勝手にしてくださいというだけのじゃないかなかぁ。

話は戻ってこのバカロレア改革、検討している作業部会の検討期間を5月末まで延長して議論を重ねることを政府は約束したが、撤回した訳ではないので、今後もこの抗議活動は続く模様。但し、その間、抗議活動に没頭するようなマヌケな学生は少ないそうだ。
今後、この話がどのように転ぶかは非常に興味深い。