生活者の観点からさらに郵政事業について勉強してみる

 
昨日のエントリー(郵政民営化についてこの問題に詳しい方々(馬車馬さんやfinalventさんら)にお聞きしたいこと - antiECOがいるところ)では、郵便為替法、郵便振替法が廃止になるけれど、海外送金についてはどうなるのだろうと心配点を呈示しました。
 
為替、振替については、海外、国内の2つのポイントに分けて考えなければならないようです。

(1)海外送金について
基本知識として現状を説明しておきます。
 
現在日本の郵便局(一部の簡易郵便局を除く多くの郵便局)からの送金方法としては、
①相手の住所地に送る(口座は不要)
②相手の郵便振替口座に送る
③相手の銀行口座に送る(但し、22カ国に限る)
の3種類があります。
また、送る側については、
④自分の郵貯の口座から送る
⑤自分の郵便振替口座から送る
⑥現金を持参して送る
の3通りの方法があります。

口座間の送金については、現在の銀行でも取り扱っている(すべての銀行及びその支店で取り扱っているかどうかはわかりませんが)ので、これについては検討からはずします。
 
で、ポイントは、①の相手の住所地に送るです。
つまり、受け取り人が口座を所有していない場合、もしくはなんらかの理由により、口座への送金が難しいときです。22ヶ国以外では、郵便振替口座を受け取り人が所有してなければ、住所地に送金する以外に送金方法がありません。

この点について、おおやさんから、以下のコメントを頂きました。
 

政府提出法案を前提にして述べます。確かに現在の郵便為替法・郵便振替法は廃止されることになっていますが(郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律・第2条)、同法附則第9条が「国際郵便為替については、旧郵便為替法(中略)の規定は、なおその効力を有する」、附則第13条が「国際郵便振替については、旧郵便振替法(中略)の規定は、なおその効力を有する」としており、新たに設立される「郵便貯金銀行」が「当分の間」業務を行なうこととされています。
もちろん問題は「当分の間」がどのくらいかという点にありますが、新たに別段の立法措置を講じるまでということであり、戦後から延々と「当分の間」が続いている法律も確かあったかと思います。そもそも国際郵便制度については条約に基づく義務を負っている部分が大きく、国内制度の変更のみを根拠としてそれがなくなるとは考えられません。すでに民営化を行なった諸国も国際郵便為替の対象国から除外されていませんから、我が国においても基本的には郵便局がサービスを継続することになると考えられます。

 
つまり、国際郵便為替、国際郵便振替ともに、当分の間は業務が「郵便貯金銀行」にて実施されるというのが、この法案に示されています。
 
郵便貯金銀行」の窓口取り扱い面については、「郵便局株式会社」に委託されるとの構想ですので、おそらくこの国際郵便為替、振替業務も委託されることになるのでしょう。
 
郵便局にて住所地あて送金依頼をしますと、その住所地に為替証書が届けられ、受取人は、基本的にはその住所地の最寄の郵便局(日本の場合、簡易郵便局を除く)にて現地の通貨にて現金化することになりますが、このようなサービスは今後も継続されるということでしょう。
 
また、条約の義務を負う部分が大きいことから、「郵便貯金銀行」の経営判断でこの業務を取りやめることは難しいとのことのようです。
 
そこで、気になるのが、「郵便貯金銀行」から「郵便局株式会社」に委託される委託業務内容及び委託金額です。
 
収入(取り扱い手数料総額)>=委託金額であれば、この業務について赤字化は心配されませんが、委託費として一般的に想定されるシステム運用・維持費+人件費+諸経費については、おおやさんの2つ目のコメント

国際郵便為替について、現行法の6条2項は「国際郵便為替に関する料金は、条約に料金の範囲が規定されているときは、その範囲内において、条約に料金の範囲が規定されていないときは、万国郵便連合の郵便為替に関する約定に規定する同種の料金を超えない範囲内において、公社が定める。」としています。nenokoさんが言及しておられる「国際返信切手券」(相手国の郵便局で、その国での航空普通郵便物の最低料金に相当する切手に引き換えられる)制度もそうなのですが、先進国・発展途上国を問わず国際的な情報と金銭の流通を保障するという公共的な目的のために、市場原理を無視した低廉な価格設定を強制し、不足する財源については主として先進国が負担するという構造がこのあたりにはあり、それは日本一国の都合でどうこうはできない(すべきでもない)ものではあります。

にもあるように、どうも市場原理でペイできる類のものではなさそうです。
 
この点については、竹中大臣のご発言

郵便貯金銀行郵便保険会社にとりまして、郵便局ネットワークは極めて重要でございます。また、両社にとって、新たに自前の店舗網や保険募集体制を整備するには膨大なコストがかかります。一方、郵便局会社にとっては、両社からの収入がその大宗を占めるものと見込まれます。したがいまして、移行期間終了後においても、全国一括の代理店契約が引き続き維持されるものと考えますが、この点についても、承継計画に対する主務大臣の認可の枠組みの中で、契約が十年以上の長期にわたり安定的、継続的であることを担保することができることとしております。

仮に、郵便局会社にとって、ネットワークの一環としての重要性が低くなって、また採算性の面から、貯金・保険サービスの継続が困難となる郵便局が過疎地など一部に生じたとしても、これらのサービスが地域にとって必要性が高く地域貢献業務に当たる場合には、郵便局会社が社会・地域貢献基金から資金交付を受けることになり、これによって、これらの郵便局における貯金・保険サービスの提供が確保されるというふうに考えております。

 
を聞く限り、どうも「郵便貯金銀行」からは(郵便貯金銀行によって)ペイできる範囲の委託金額を渡し、赤字分は郵便局会社がかぶるような制度設計がなされているようにも見えます。
 
このあたり、この法の設計上、国際郵便為替制度の運用の義務及び権限が「郵便貯金銀行」に委ねられつつも、実質的には維持の責任が「郵便局株式会社」に負わされているようです。専門家の方がこのあたりをどのように解釈されているのか興味のあるところです。また、このポイントは、郵貯関係の委託業務全般に共通することかも知れません。

 
(2)国内の郵便為替・郵便振替
おおやさんからは、以下のコメントをいただきました。
 

なお国内の郵便為替・郵便振替については施行日までに振り出したものの処理に関する規定のみが置かれていることから、独自の制度としては廃止されるのではないかと思いますが、詳細に検討はしていません。

につづき、

これが新銀行の負担になるというのはおそらくその通りなのですが、内容証明郵便や特別送達(このために郵便認証司制度が作られるわけですが)、あるいは第三種・第四種郵便など、公共的な観点からなくすわけにいかず、担当するとしたら(少なくともとりあえず)郵便局しかないという業務は他にもあります。で、その部分については「社会貢献業務」として必要なお金を投入する仕組みも作られています。ですから「民営化」といっても本当にまったく普通の会社に明日からなりますという話ではなく、NTTのように特別のコントロールを受ける形態が当分は続くでしょう。
もちろん、どこまでが市場では本当に(適切な価格で)供給できないもので、どこからはそうでないのかという点は問題で、どうも内国為替・振替については「そのために特別の財源を用意するほどの公共性はない」と判断されているようですから、サービスとして引き合うという話なら継続するでしょうし、そうでなければ廃止されるでしょう(繰り返しますが、国際為替・振替とは別の話です)。
簡便な送金手段としての定額小為替は別にして、普通郵便為替を使わなくてはならないケースが現在の日本国内でどのくらいあるかというと結構疑問ですから、それでもいいのかな、とは思います。従来は国立大学の授業料支払いが普通郵便為替に限定されていたのですが、これも法人化でどうでもよくなりましたから(我が大学はコンビニ払いが可能になりました。法人化の数少ない利点の一つです)。

というコメントを頂きました。
 
このあたり、Bewaad Institute@Kasumigasekiさんの関連エントリー
■ [politics][economy]郵政民営化と解散を考える・その3の1:郵政非民営化改革私案(概要)(http://bewaad.com/20050818.html#p01
■ [politics][economy]郵政民営化と解散を考える・その3の2:郵政非民営化改革私案(考え方)(http://bewaad.com/20050819.html#p01)が参考になるのですが、郵便為替の言及がないのが残念です。
 
ここで私の関心は二つに分かれます。(実質は3つですが。)
定額小為替、普通郵便為替はもうすでにその使命を終えているのか?
定額小為替、普通郵便為替に相当するサービスを「郵便貯金銀行」は提供可能か?
(郵便振替(無利子決済口座)制度は必要とされていないのか?)
 
この点について馬車馬さんからは以下のようなコメントを頂いています。

私はこの件については無知ですのでちゃんとしたことは書けませんが、もしこの為替が大赤字を出しているのであれば、廃止されるべきだと思います(もちろん、民営化されるのであれば、それは経営陣が勝手に考えればよい話であり、べき論を語ってもしょうがないのですが)。もしこのサービスが国民にとって価値があるというコンセンサスがあるのであれば、税金でサービスを維持すればよいことです。

 
このコメント頂いて正直悩みました。先の国会では、国際郵便為替に関する部分を除き、郵便為替法の廃止が提案されました。この法案が仮に可決されていた場合、「定額小為替」、「普通郵便為替」という制度そのものはなくなる予定だったようです。
つまり、経営陣が勝手に考えるかどうかに関わらず、その前に制度そのものが存在しないことが想定されます。

また、「もしこの為替が大赤字を出しているのであれば、廃止されるべきだと思います」とのことですが、

馬車馬さんは、民営化できない業種のいくつかの条件として、採算性が低すぎて民営化したらつぶれてしまう場合を掲げられています。
 
もちろん、大赤字を出していて、なおかつ、国民にとって価値がないというコンセンサスがあるのであれば、廃止されるべきというのであれば、理解できます。
 
ということを考えた場合、私の昨日のエントリーの最初の関心に戻ります。
 
この郵便為替業務は、国民にとって価値があるのかないのかどちらなんだろうか 
という点です。
 
これに対しては、finalventさん、馬車馬さん、bewaardさんも明確な見解は示されていません。
 
そこで、郵便為替そして郵便振替が利用されている例を探してみました。
 
郵便振替については、簡単で、楽天等ネット販売を訪問すると、ほとんどのショップが銀行振込と代金引換に対応、郵便振替やカード決済、コンビニ決済はまちまちですね。というのも、どのショップも最初に住所、氏名等の個人情報を登録することになっているからなのでしょう。
 
郵便為替については、ネットオークションや「売ります・買います」などの個人間決済、メジャー系ではないコンサート、演奏会、展覧会などのチケット販売等で、特に定額小為替をメインに使用されているようです。欧米での非営利な個人間決済が小切手で行われていることの代替手段なのかなぁという実感です。同人誌の販売にも定額小為替はよく利用されているようですね、今回初めて知りました。それ以外にも、公共機関への現金送付方法としてかつてはよく利用されていたようですね。

nonekoさんからは、 

郵便為替自体は、国内ではとうぶんなくならないだろうけど、
はてなポイントみたいな換金可能なサービスは、
ネットが普及すれば、ネットが為替をするようになるかも。
iTuneもポイントカードを買うという方式もあるし。

というコメントを頂いていますが、銀行のパーソナルチェックの習慣のない日本において、現金以外の金銭授受の代替手段が国民一般に浸透する可能性がどの程度あるのか、日本国外にて暮らしているせいなのでしょうかもあるのかよくわからない状況にあります。
 
「ネットが普及すれば、ネットが為替をするようになるかも」という点についてですが、
 
これは本当は別エントリーで考えていたことなのですが、
 
「高齢者層はいったいどうやったらインターネットを始められるのだろう」
と言う点についてです。

インターネットに接続するためには、一般的に、

①パソコンを選ぶ。
②パソコンを購入する。
③インターネットへの接続方法を選ぶ。
④プロバイダーと契約する。(銀行引き落とし等の手続きをする)
⑤接続工事が行われる。
⑥パソコンの操作法を覚える。

さらに、ネットでショッピングをするためには、
⑦ネットショップに行き着く
⑧商品を選ぶ
⑨商品を注文する
⑩決済方法を選ぶ
⑪決済方法に従い、支払いを済ます

そして、それを電子マネーでやろうとすれば
電子マネーサービスを選び、登録作業を行う。
電子マネーをチャージする。
というステップを乗り越えなければなりません。
 
私は、海外で暮らすにあたり、両親とメッセンジャー等によりテレビ電話できればいいなと思い、努力しました。
①、②をクリアするために、我が家のちょっとだけ古いパソコンを持参。
③④は私の名義で契約
⑤の導通確認を兄弟に依頼し
⑥は兄弟総出で指導。
 
が、そんな努力もむなしく、接続料金のみが引き落とされ、両親のライブ映像には行き着いていません。

まぁ、こんな我が家の状況つまりは既存のお年寄りの話は置いておきましょう。
 
今後の新規お年寄りの場合ですが、社会人時代にネットに触れる機会が多かった可能性があるので①−⑪をクリアする素養のある人々が多くなるとは思いますが、それでも大多数を占めるとはどうしても思えません。

例えば、アンチウィルスのソフトの更新期限が過ぎて、購入を促されたとします。これには、更新キーを購入し、登録・更新作業が求められますが、私の個人的な感覚では、あれは自分ひとりでやるには利用者の平均的対応可能レベルを超えているように感じます。
 
⑫、⑬については、電子マネーをネット上で購入するための支払いをどうしましょうかという点も気になります。クレジットカード等による決済のリスク、特にネットでのセキュリティの知識が十分でない層には私はまだまだお勧めできません。そもそも、クレジットカード等を持たない人も多いですし、クレジットカード等を保有していることを前提としたサービスはユニバーサルサービスとは言えない感があります。
 
え、Edyとかの電子マネー知らないの?と聞かれれば、知ってますともちろん答えます。ローカルチャージ(それともオフラインチャージ、ダイレクトチャージといえばいいでしょうか)があることも知っています。でも、あれも、パソリをゲットして、Edy Biewerをダウンロードのところで、挫折してしまうことも少なからずあるように思うのですが実際のところどうなのでしょう。
 
それに、あのシステムはあくまで、個人からマネーが出て行くシステムが主体のようです。

郵便為替の目的は、金銭の授受です。つまり、受け取る仕組み、そして現金化できる仕組みがないといけません。
 
例えばはてなポイント送信機能では、ユーザ個人にユニークなIDが付与されているので、このID間でやり取りをすることにより成立します。なので、日本国民1億人全員とは言わないまでも、個人間の現金授受が必要な人にIDが付与されれば実現は可能だとは思います。

が、しかし、これには課題があります。
 
例えばnonekoさんが写真集を実費で販売することになったとします。
antiECOがこれに興味を持ち、購入を申し込みます。
送金は簡単です。antiECO→nenokoのポイント送信で終了です。
ですが、写真集はこれでは私の手元には届きません。私の住所、氏名をnenokoさんに通知しなければならないからです。
私はnenokoさんに住所、氏名を連絡し、無事、私のところに写真集が届きます。
そして、nenokoさんは私の住所、氏名をゲットします。antiECOって本名○○って言うんだ、ふーん。
当然、これを回避する手段も理論的には考えられます。nenokoさんがはてなに写真集を送付し、はてながantiECOに送付するという手段です。ですが、この場合、送料が高くなること、そして、個人間のやり取りに企業が介在可能かどうかが問題となりそうです。
まぁ、そもそも、住所も名前もわからないnenokoさんを信用していいのかという話になりますから、nenokoさんが住所、氏名を明らかにしない限り、私はおそらく購入を申し込まないでしょう。
 
つまり、ネット上で写真集や同人誌販売等の個人間取引を行う場合、双方の住所、氏名だけでなくなんらかのネット上の決済IDを必要とします。
 
そもそも、個人間で郵便為替を使用するのは、決済口座を保有していないかもしくは口座情報を伝えたくないケースが多いでしょうから、ネットIDの情報ならば相手に知られてもいいというのは成り立ちにくいように思います。口座を新規開設もしくは、口座情報を伝える方が早いでしょう。

ただ、口座間の送金となると、気をつけなければならないことがあります。
 
よくあるトラブルが、送金を受けたが、送り先がわからないというケースです。
 
口座振込で受け取り側が受け取る情報は、「口座名義+ちょっと」の情報と金額です。
住所等の情報は別途連絡してもらわなければなりません。そして、住所情報を入手したくても、受け取り側に相手に到達するすべはありません。
別途、送金前もしくは、送金後にこれらの情報を郵便等で知らせてもらう必要があります。
 
一方、郵便為替の場合、それを別途本人が郵送し、その際、その人が自分の住所、氏名等を記載し忘れるケースを除き、基本的には送付も同時に窓口で依頼できるので、あまりこのようなトラブルを心配する必要がないようです。郵便振替も払込人の情報を記載する欄がそういえばあったように思います。
 
しかし、最近のネットショップでは、最初に購入希望者側に相当量の情報提供を求めていますので、こういったトラブルが発生する余地はないようですので、商用ではない金銭の授受にある程度しぼって考えてもいいかも知れません。
 
ただ、ネットショップで購入する際に、最初にあれだけの情報を求めるとなるとどうなんだろうという面もあります。e-mailアドレスが必須なケースが実に多いですから、これだけで購入をあきらめる人も少なからずいるのだろうなと思います。50歳以上で、プライベートe-mailアドレスを持っている人、自宅のパソコンのメール環境の設定を出来る人や、自分のプライベートメールアドレスをきちんと覚えている人はどれくらいの割合でいるのでしょうか。今後e-mailの一層の普及により、郵便物が減るかどうかは定かではありませんが、ネット商品市場は拡大するかも知れませんね。
 
まぁ、ノスタルジーに浸っていてもいけないのですが、ちょっと遠方のなじみの店に電話をして、郵便為替で送料込みで代金送るからちょっとあれ送ってくれないかなと交渉し、為替送る際に、お礼状なんかを同封しておくなんて機会がなくなるかもしれないということでしょうかねぇ。為替は手紙と同封できるところがポイントだったりするんですが。もちろん、郵便為替じゃなくて、プライベートチェックが小額から普通に流通すれば代替されるのですが。電子マネーでお年玉を甥っ子姪っ子に渡すというのは、私は無理かも知れません。
 
生活者としての個人的な感覚としてはこんなところですね。オチなしで済みません。頭の体操で終わってしまいました。