メトロのことで少々

(1)メトロが変わった、少しだけ
パリのど真ん中を東西に走る1号線。新凱旋門のあるラ・デファンスを西端に、シャンゼリゼ通りをひたすら東に、凱旋門コンコルド広場など観光名所をつなぐ最もポピュラーな路線であり、また歴史が古い割に比較的新しい車両(ドアが全自動。日本なら当たり前なのですが、最新鋭の無人運転の路線を除き、他はレバーを回してドアを開けるタイプなんです。)ですが、この1号線に最近ちょっとした変化がありました。
たいしたことではないんです。だけど、やっぱりちょっと驚いていたりします。
それは、な、なんと、車内放送が始まったんですね。と言っても、次の駅名を2回告げるだけのことなんですけど。
でも、今までバスではそういう車両は一部あったんですが、でもメトロがしゃべるなんてことはなかったんです。
これは新鮮ですね。だって、今まで駅名は文字で覚えていたのに、それがフランス語ではこんな発音だったんだと知ることが出来るんです。
お前はパリに暮らしていてそんなことも今まで知らなかったのかとお叱りを受けるかもしれませんが、駅名なんて辞書に載ってませんし、その駅に知り合いがいたりとかしない限り、まず普段の会話で駅名なんて出てきません。○区の××通り△番でだいたい用が足りちゃいますから。
こちらで暮らして日本を振り返ると、日本の鉄道ってホントに頻繁に新型車両に入れ替えてますよね。すごいことですよ。こっちは駅も昔のまんま、車両も昔もまんまですから。補助座席が壊れてたってお構いなし。へたしたら、じゃまになるからと撤去しちゃうくらいですからね。車だろうが車両だろうが家具だろうが、ボロボロ、つまり使用不能になるまで使い倒すんです。外にタンスを捨てたっていつの間にか誰かが持って行ってしまいますから。たまに便器が捨ててあるのを目にするとちょっとビックリしますけど...さすがにこれを持ち帰る人はいないようですが。
(2)風物詩其ノ壱 物乞いの方々
乗降者数の比較的多い駅のホームには、物乞いをする人がそれぞれ縄張りを持って活動されています。もちろん乗り換え通路に敷物敷いて待ち構える方々もいます。さらには電車の車両に乗り込んで集金に回る方々も見受けられます。
とある駅のホームに有名な女性がいるそうです。歳は50過ぎ、手提げ鞄をぶら下げて、夕方の午後5時から10時の間、ホームを言ったり来たりしながら巧みに乗車待ちの人々に話しかけて小銭を無心するとのことですが、そこは彼女もフランス人、しっかりと週休2日制を取り、夏には長期バカンスに入るようです。普通に考えれば顔ぶれが同じである平日に狙いを絞るよりも顔ぶれの変化が激しい土日に巡回した方が効率がよさそうに思うのですが、それがそうでもないようなのです。どうも一見のお客さんよりもなじみ客を捕まえる方が効率的らしいのです。
一度くらいはと思って少々の小銭を手渡すとします。
すると、次の日にもその人はいるわけです。そうすると、気の弱い人やとても気のいい人は、昨日あげたのに今日避けたりするのはどうだろうかと思ってしまうわけですね。
なので、今日もちょっとだけならと手渡します。
すると、また次の日にもその人はいる。二日連続でくれたのになぜ今日はダメなのかとなるわけですね。
これが、敷物敷いて、皿への投げ銭を期待するタイプであれば素通りできるのですが、こちらは話しかけタイプ、ひとたび視線を合わせようものならすっと近づいてきて会話から始まるわけです。すっかりとお知り合いになってしまうんですね。
こうなったらもうアリ地獄です。いつまでもそこから抜け出すことは出来ません。
ある日、もういい加減その関係から抜け出そうと勇気を出して断った人がいたそうです。すると、あろうことかそのおばさん、その人に顔にツバを吐きかけ、フランス語でこの人でなしと捨てぜりふを残してその場から離れていったそうです。それを見たまわりの小心者のアリさんは二度と逆らうまいと心に誓ったそうです。
プロは年季の入り方が違いますね。
(3)風物詩其ノ弐 演奏関係の人々
日本でも知る人が多いと思いますが、乗り換え通路やメトロの車内に楽器やカラオケなどを持ち込み演奏する方々がいます。たまに人形劇なんてのもあります。許可をもらうためにはオーディションに合格する必要があるようですが、そのレベルはさまざまだったりします。ただ、最近は少し減ってきたような気がします。どうもおひねりが少なくなってきたようなんですね。
フランス人はかなりのけちんぼです。滅多なことがない限り無駄な銭を使いません。なので、マジで感動しない限りおひねりを出すことはないのです。
どうなんでしょう、やっぱり全体的なレベルが落ちつつあるのでしょうか。いきなりカラオケでシャンソンを唄われてもどうかと思ってたりします。
ただ、さすがにアコーディオン弾きにはなかなかの腕を持った人もいるようです。これはけっこう楽しませてくれたりします。ちょっと感動したし今日は出すかなんてポケットをがさがさしているうちに回収の紙コップが通り過ぎてしまうと残念だったりしつつ、どうしてもうちょっとゆっくりまわらないんだろうと思ったりもします。けっこうコップを持ってまわるスピードも収益に関係するのではないでしょうか。遅すぎると催促されているようでちょっとむかつきます。が、しかし、あまりにも早過ぎると出してる暇がありません。そのあたり、適切なスピードを研究して指南する人がいたりするといいのになんて思ったりもしますが、そこはフランス人です。そんな面倒なことは考えないみたいです。