Madonna 「Confessions on a dance floor」

まぁ、驚いた、完璧ですね、ある意味。
それにしても、このマドンナおばさま、血気盛んというか、挑発的というか、頭が下がります。
いや、いいアルバムです。しかも驚くほど緻密に計算されています。

Confessions on a Dance Floor

Confessions on a Dance Floor

しかし、ここまでディスコ・ミュージックと言っていいのか、ハウスミュージックと言っていいのか、このダンス音楽関係業界の方々の横っ面を思いっきりはり倒すような勢いの作品をつくらなくてもいいのに、まぁ、かわいげのないこと。
ダンス・リミックス作品をつくる、プロというのはこういうものだという迫力と底意地みたいなものが滲み出してますな。
よっぽどこの最近の業界に腹を据えかねることでもあったのでしょうか。
もう、私の場合、これを聞くとにやにやと笑ってしまって踊るどころではありません。いや、もう、踊る歳でもないのですが(苦笑)。しかし、そこまでやるか、普通。
以下、勝手な想像と感想でも。
(1)著作権、作品についてのプロとしての思い
 マドンナがネット上に出回る違法コピーに相当むかついているってことは、これまでいろいろな話が伝えられている。今回も音源が発売1週間前にネット上に流出して怒り心頭なんてニュースもあった。Infoseekニュース|ニュース速報、芸能ニュース 前作「American life」の時には偽のトラックを用意したなんて話は知っている人も多いだろう。
 そのマドンナ、現在、iTuneで過去のアルバムを含めて配信を開始、最新シングルの「Hung up」は現在ダウンロード1位だ。
 この「Hung up」が配信されたとき、一瞬あれだけ自分の作品、そして音にこだわる彼女(例えば、1990年リリースのベストアルバム「IMMACULATE COLLECTION」での試みなど)が、なぜ?とも思ったのだけど、この曲とPVを見て、なるほどなと感心した。
 理由は簡単。この曲だけでなく、アルバムのほぼ全曲(最後の曲だけが生楽器を使用)がそうなのだけど、アコースティックな音は使用していない。彼女の声すら全曲加工済みなのだから、恐れ入る。元々の音源が圧縮してもカットされる音が出ないものになっているのだ。まるで、ディスコ・ミュージックというテーマを隠れ蓑にして、ローテク、ローファイご免みたいなことを確信犯的にやっているようなのだ。
 どうやってもネットで流出するのであれば、正規に売ってしまえという気持ちもあるのかもしれない。
 ただ、そうはいっても、それだけでは終わらないのが彼女、1曲目の冒頭部と11曲目、そして最後の12曲目の音質は高く、圧縮したものを聞くと、CDで直接聞く音とは差が出る。そして、もちろん、ヘッドフォンで聞くのと、ハイパワーでスピーカーを鳴らすのでは伝わる印象が変わる。ただ、それぞれの環境でそれなりに楽しめるように計算されているところが脱帽させられるのだ。クラブやオシャレなスペース(人気ブティックやカフェなど)で鳴らす音源としては圧縮ファイルではちょっと音質不足の感は否めない、つまり、リスニング環境に応じ供給音源が異なってもいいというのが彼女の姿勢だろう。
 プロ意識として感じさせられる話としては、サンプリングに対する厳しい姿勢がある。サンプリングのあり方についてはこれまでもその賛否を含めいろいろと議論があったが、今回の作品で彼女のスタンスが明示されたと思う。「Hung up」はABBAの「Gimmie Gimmie Gimmie」のサンプリングをベースにしている。そして、ABBAの楽曲の使用許諾はなかなか出ないところ、マドンナ自身が説得して使用許諾をもらったなんてニュースもあったが、要はその曲におけるサンプリングの位置づけなのだろうと思う。下手をすれば、サンプリング元曲のリミックスになりかねない楽曲、つまりその楽曲の過去の栄光にすがりオリジナリティの感じられない曲との違いを今回まざまざと見せつけたのだと思う。
(2)ダンス・リミックス
 マドンナは以前から自らの作品のダンス・リミックス盤をこれまで数多く発表している。それだけ思い入れが強い彼女だが、今回のアルバムは実はオリジナルなしのダンスリミックス盤とも言える。これは勝手な想像だが、おそらく1曲目、11曲目、12曲目を除く各曲はオリジナル・エディットを用意した上でそれをリミックスしたのではないだろうか。
 なぜかこれらの曲を聴いていると、別アレンジの曲が頭に浮かんでくるのだ。では、なぜ、彼女は全編リミックスのアルバム、しかも、頭からお尻までつなげてしまうという、DJミックスみたいなアルバムをつくったのか?
 もちろん、さぁ、このアルバムで約60分、ノンストップで踊ってくんなましって素直に受け止めることも出来る。でもね、踊れないんだな、このアルバム。熱くなれないというか、熱くならせてもらえない。「Causing a commotion」「Into the groove」「Vogue」、最近で言えば、「Hollywood」や「Die Another Day」そして、あの「beautiful stranges」で感じたグルーブ感みたいなものは伝わってこないのだ。
 1曲目から始まって10曲目までは、まるでこれまでのダンス・リミックスのおさらいをさせられているというか、ところどころに挿入されている懐かしいフレーズ(でもサンプリングではなくまったく新たに用意されたもの)を聞かされると、
 私はこうやって新しいことに挑戦してきたのよ、わかった?
と女王様に責められている気分にさせられてしまったりして、そこで「にやっ」と思わず笑ってしまうのだ。そして、11曲目、12曲目に展開される彼女の新境地、これをちょっと出しされて、ノックアウトされてしまう。そんな12曲目「Like it or not」の曲中「You can love me, you can leave me, because I'm never gonna stop...」とやられてしまうと、はい、どこまでもついていきますと思わず言いそうになってしまい、ここでも「にやっ」と笑わずにはいられないのだ。

 しかし、まぁ、耳に痛いアルバムだこと。これをやられてしまうと、他のミュージッシャンはしんどいでしょうし、各クラブのDJの皆さんが、彼女のリミックスを越えるプレイ(曲のつなぎを含む)が出来るものなのか、とても楽しみだったりして。50が近いこのおばさんの方がこれだけ感性がとんがっているとすれば、ガキンチョはさっさとお家に帰ってうちで勉強でもしなさいということですかねぇ、まさか、素直にこのアルバムを楽しんでいるこの業界関係のプロの方がいらっしゃるとは思えませんが。ご愁傷さまです。いくら、「○○○○○○」って言われてもねぇ、あれにはちょっとドキっとした。
(参考)

ウルトラ・マドンナ グレイテスト・ヒッツ

ウルトラ・マドンナ グレイテスト・ヒッツ

このアルバム、ヘッドフォンで聴くとちょっとした浮遊感が味わえます。

(おまけ)
 そう言えば、以前、このアルバムの1曲目、「Hung up」のプロモーションビデオがオンエアーされた時に、
「このピンクの(レオタード姿の)おばさん、なにしてはりますの」と突っ込みつつ、
「なにそのヒールの高さ、それで軽く踊っちゃいますか」
と感想を書いたのはもう随分前の事になりますが、実はあの時、この曲に感じた彼女の計算には触れずにいました。
 今回のテーマはダンス・ミュージックよとマドンナご本人が宣言されているように、ジャケットのMADONNAの「O」がミラーボールになっていたりして、犬さん大喜びだと思います。
 この曲、音質的にチームな感じから、だんだんと音質を上げていくんですね、といっても最後まで最高音質には至らないのですが、気分的にはいい音を聞いているような気分になってしまう、そしてこのPVに使われている映像もまるでホームビデオで撮影したかのようなチープな雰囲気が段々とエッジが効いた映像に変化していくのですが、実は最後まで画質的には変わっていないんですね。まぁ、なんて言うんでしょう、本人だけではなくこれはビデオに出演しているダンサーらも含めてなのですが、実力のある素材が力を発揮すればこんなものよ、みたいな自信が伺えます。